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「王と鳥」 1979年 フランス映画

 

 アンデルセンの「羊飼いの娘と煙突掃除人」をもとに、フランスアニメーション界の巨匠・ポール・グリモーが、ジャック・プレベールの脚本で製作したアニメ。1947年の開始から、監督の意にそぐわないままの公開、フィルムを取り戻すための裁判、再製作を経て、79年に完成した。

 どの場面も細かい計算が効いて絵がきれいで、キャラクターの造形がおもしろいうえ、全篇を満た

す音楽の旋律が美しく、魅力的な作品だった。

 物語の舞台はカキカルディ王国の高層宮殿。気に入らない者は平気で殺す、冷酷でうぬぼれの強い王は、最上階の秘密の部屋に飾ってある絵の羊飼いの娘に恋をしている。彼女は隣に飾られている絵の煙突掃除の少年が好き。ある夜、王が寝静まっている間に、二人は絵から出て、宮殿からの脱出を図る・・・。

 おもしろいのは、二人を追うのが現実の王ではなく、同じく絵の中から出てきた王の肖像で、彼が、目覚めて驚く王を落とし穴に落として(これは相手を消す時の王のいつもの流儀)、大々的な追跡劇を演じることだ。王の見ている夢を描く劇中劇でもなく、王の妄想そのものでもなく、物語は初めからおかしくも不気味な進行を始める。

 二人が王と対立する鳥に助けられながら宮殿をくだる過程で、厳格な階層社会である宮殿の内部が描かれるが、最下層には太陽も風も知らない人々が、言い伝えのように解放者の鳥を待ち、片や辛い労働を強いられる人々の群れがいて、まるで現在の世界の縮図のようだ。

 王の手下である巨大ロボットを鳥が操縦して瞬く間に宮殿が崩壊し、王は空遠く飛ばされ、二人は愛を確認する。食い意地が張ったおバカでかわいいひな鳥がかかったわなを、ロボットの手が叩きつぶす最後の場面には、抑圧に対する抵抗の強烈なメッセージが感じられる。しかし、あの宮殿に閉じ込められていたたくさんの人々は?鎖につながれていた労働者は?そもそもこの崩壊した世界は、物語の真の現実なのか?

 宮崎駿と高畑勳が青年期にこの作品に感銘を受け、アニメーションの道を志したそうだが、これに出てくる巨大ロボットは、「ナウシカ」の巨神兵や、「天空の国ラピュタ」の、心優しくも破壊に利用される悲しいロボットたちを髣髴とさせる。また、鳥が羊飼いの娘を助けようと、ライオン相手にアジテーションをする場面は、「平成狸合戦ぽんぽこ」の平太が、人間と戦おうとアジる場面とよく似ている。

 ちなみに、原作「La bergere et le ramoneur」とのちがいを見ると、ここでの二人は絵ではなく、テーブルに置かれた陶器の人形で、羊飼いとの結婚を望むのは家具に彫られた羊の角をもつ男。彼らに結婚を承諾するよう意見するのは、下半身が馬の彫刻ではなく、陶器の中国人形だ。また、二人が屋根の上から初めて外の世界を見ること、仲を裂かれずにすむことは共通だが、原作では、世界の広さにおびえた娘が煙突掃除人を説得して、もといた場所に舞い戻る。原作での逃避行は、暗い煙突を上に上にと“登っていく”が、映画では、急で複雑な階段を“駆け下りる”。さらに、主人公である鳥も、宮殿内の人々もロボットも、盲目のアコーデオン弾きやライオン、警官など、みな映画のオリジナル。軽いオチで終わる短いお話が、社会風刺と諧謔の詰まった壮大なスペクタクルに作り直されているわけだ。

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