シネマ大好き

 

  

 

HOME

 

 

 

映画と原作

 

 

 

写真館

 

 

 

MEMO

 

 

 

BLOG

 

 

 

LINK

 

 

 

PROFILE

 

 

 

CONTACT

 

 

310分、決断の時」

 2007年 アメリカ映画

 

原作はエルモア・レナード。57年に発表されたデルマー・デイヴズ監督作品を、ジェームズ・マンゴールドがリメイクした。
 元北軍で優れた射撃手だったが、戦争で片足を失ったダン・エヴァンス。妻と二人の息子と共に小さな牧場を営んでいるが、干ばつによる水不足とかさむ借金に悩み、家族の視線も冷たかった。そんなある日、馬小屋が放火され、逃げた牛を息子たちと共に追いかけたダンは、悪名高いならず者ベン・ウェイドの一団が駅馬車を襲っている現場を目撃する。
 撃たれたが唯一生き残った賞金稼ぎバイロン・マッケルロイを街まで運ぶダン。一方ベンたちは、町で保安官たちに駅馬車襲撃を伝えて、彼らを現場に向かわせ、酒場で金を分けるという大胆さ。ベンが、手下を先に行かせ、一人酒場の女と過ごしている所に、借金交渉で地主を追ったダンが現れ、二人は再会。そこへ保安官が戻ってきて、ベンはあっけなく逮捕された。
 ベンをユマの刑務所に送ることになり、ダンは200ドルで護送を請け負う。鉄道会社の代表クレイソン・バターフィールド、バイロン、バイロンを治療したポッター、地元の悪党タッカーも一緒。息子のウェイトも彼らを追い、コンテンションまでの危険な旅が始まる。
 自分をからかって寝かせなかったタッカーを、野営中にフォークで突き殺し、母親のことを3娼婦だと言ったバイロンも、馬から飛び掛って崖に投げ落とすベン。手錠などなんのそのだ。非情で狡猾で、油断ならない反面、鷹揚で、ひとなつこさもある複雑な人物。仲間を殺すのにも躊躇しない一方で、女子どもに対するバイロンのかつての残虐行為をなじる。そんな彼の良心が、ダンに親しみを覚えるのだろう。
 アパッチの急襲からダンたちを救ったかと思うと、そのまま逃げてしまったベンは、鉄道の工事現場で、彼に恨みをもつ自警団につかまるが、ダンたちが彼を奪取。自警団をやっつけて一致団結で逃げる彼らは、まるで仲間。二人のうちに次第に微妙な連帯感が生まれていく。
 ダンにとって、ベンは報酬をもらうための手段で、ユマに送れば絞首刑という、ベンを待つ運命に、なんら同情していない。だが、一方のベンは、ダンに初めて会った時から、彼に親近感を覚えているよう。馬を奪っておきながら近くにつないで去り、再会した時は快く牛の弁償を払う。ダンが追い詰められた目をして必死なのに対し、連行されるベンの方は、余裕綽々。刻々動く状況を読み、事態をダンに教えるベン。だが、心理的にも状況的にも優位に見えるベンの方が、結局これ以降、ダンの出す結論に従い、彼の望みに合わせて行動することに。それは一見、懐の深さだが、ダンに対して感じた絆ゆえに取ってしまう最後の行動は、狂気を感じさせて衝撃だった。
 ベンの部下チャーリー・プリンスの目も狂気がたぎっている。彼がベンのいるホテルを囲み、護衛の殺害に200ドルの賞金を賭けたため、敵は30人以上に。身の危険に地元の保安官もクレイソンも逃げ出し、残るはダン親子だけ。ダンは、息子に残された家族を託し、一人でベンをユマ行きの列車に乗せる決意をする。
 逃がしてくれたら金をやる、というベンの取引に、それまで会話を拒んできたダンが、初めて自分から思いを語る。息子から尊敬されたいという男としての意地。ベンも、母親に捨てられた過去を語る。列車の到着時間が迫る緊張のなか、短い二人の会話には、微笑みがもれるような心のつながりが感じられる。そして、列車までの二人の道行きが決行される。
 ホテルから、建物の壁をつたって小さな駅舎まで。そこを出て列車まで。銃弾が飛びかう、すさまじい打ち合い。それをかいくぐる二人は本当に同士のよう。そして、父親の仕事を見届ける息子。父親を軽蔑していた彼だが、今や父は彼の誇りだ。二人の別れに涙が出た。
 思えば死体累々。タッカーもバイロンも、心ない悪者はあっけなく死に、ベンが早撃ちで殺す手下たちの死は理不尽。一方、優しい獣医のポッターやダンの死に際は、目が美しい。相手から聞きたいたった一言を聞いて死んでいく彼らは、とても安らかだった。
 原作のフランス語版「3 heures 10 pour Yuma」 (ユマ行き310)を読んでみると、物語は、主人公のポール・スカランが、囚人のジム・キッドを、一人でコンテンションまで連行してきた所から始まる。ポールは、元カーボーイで、3人の子持ち。経済的な理由から副保安官になり、150ドルの月給で仕事をしている。

ホテルの周りをジムの仲間が囲むなか、ジムに兄弟を殺されたという男が復讐に現れ、ポールは彼からジムを守る。ジムは、ポールが自分のために危険を冒しながら、今度は自分を監獄に送るために再び危険を冒そうとすることを不思議がる。家族もちなのに、なぜ安い金のために命を賭けるのか。

映画では、ことを穏やかに納めようとしていた主人公が、次第に決然とした強さを表していくが、原作では初めから荒くれ者に負けない強い男。だが、律儀な性格は同じだ。ただ、危険な場面が仕事上彼には日常で、そんな所に身を置いた男の真面目さに、ジムは心を動かされる。

ところで、原作はわずか20ページ余りの短編だが、ホテルの部屋から、ジムが仲間とやり取りしようとして、ポールに相手に何と言って欲しいかと聞き、ポールが「毎日手紙を書く、といえ」という場面のセリフは、映画でそのまま再現されていた。

 

このページのトップにもどる