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CALL ME ELISABETH」

           2006年 フランス映画

 

 2007年フランス映画祭上映作品。原作を読んでいたのでさっそく観に行った。

 映画の主人公ベティは、原作より2歳幼い10歳の少女。姉が寄宿学校に行ってしまい、ひとり両親の不仲に心を痛めるが、ある日、父が院長を務める精神病院から逃げてきた青年イヴォンを見つけ、物置小屋に彼をかくまう。

 かつてピアニストで結婚生活に幻滅を見る母、娘に愛情はもつが忙しさでいつもイライラしている父。孤独に耐える少女は、一人ぼっちの青年と心を通わせる。森を抜ける暗い道、吹きすさぶ風に騒ぐ木々、がらんと大きな薄暗い家・・。イヴォンが見つかりそうになり、夜中に彼を逃がして別れる場面の悲しさ。学校でも居場所がなくなった彼女は、道に迷って戻ってきたイヴォンと、処分直前の犬を連れて古い屋敷に向かうが、映画冒頭の怖い道が一転して美しく映し出されるこの場面も、つかの間の安らぎと予想される悲しい未来のために、とてもせつない。

 主人公の孤独に心が痛むこの映画は、登場人物の設定を含め、ほとんど原作のネガのようだった。

 原作「Je m’appelle Elisabeth」では、5人姉妹の末っ子であるベティに父親はメロメロで、両親も仲の良い暖かい家庭。まわりには同じように病院に勤める親のいる子供たちがいて、彼女を苦しめるのは、残酷ないたずらをしかける男の子だけだ。彼女自身にも理由が分からないまま見知らぬ患者をかくまうが、おそらく思春期の入り口に立った主人公の心の成長と関係があると思う。娘を見守る父親の細やかな眼と、困難や起伏を伴いながらも彼女とイヴォンが交わす心の交流が胸を打つ。

 映画でベティが「私はエリザベットよ」と言った時、彼女は誰も呼ばない自分の本当の名前を、同じように孤独な青年に特別に告げているが、原作では、家族に秘密に患者をかくまった行為から自我がもたげ、家族が使う愛称でも、学校や近所の人々が呼ぶ「ドクターのお嬢ちゃん」でもない、本当の名前が彼女の口を突く。それゆえ、彼女は生涯、患者をかくまった秘密を愛する父に語らない。

 原作ではイヴォンがひとりで姿をくらまし、後に無事に保護されるが、自分を信頼していたはずの彼に見捨てられた驚きと怒り、悲しみを主人公が乗り越える描写はリアルだ。映画の結末も、予想に反して悲劇にはならない。原作の二人はその後二度と会うことがないが、映画のベティとイヴォンには、温かな長い友情が続いてほしい。

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